こんにちは、うりちきです。
11月に入り、短靴やブーツを履いて出かけるのが楽しみな季節になりましたね。
夏の間は出番が少なかったオールデンを手に取り、久しぶりにブラシをかけている方もいらっしゃるでしょうか。
さて、オールデンといえば艶のある革や特徴的な木型!ですが今回は、「その靴を作る仕事」に注目してみようと思います。
オールデンの生まれたマサチューセッツ州を含むニューイングランドでは、かつて家や小工房に分かれた人々が、手作業で靴を作っていました。
それが19世紀半ば以降、工程ごとに機械を使う製法へと変わっていきます。
誰がどの作業を担っていたのか、そして機械は靴作りをどう変化させたのか。
家での革の縫製から、靴の形を整える「吊り込み」の機械化までをたどり、現在のオールデンの工場とも比べてみましょう。
▷ マサチューセッツ州の歴史や風土については、こちらの過去記事も併せてどうぞ。
18世紀末から広がった、家と小工房での靴づくり
現在のような大きな工場が普及する前、ニューイングランドには、家や小工房を結ぶ分業の仕組みがありました。
18世紀末にマサチューセッツ州東部で発達し、1825年頃にはニューイングランドの農村にも広がった「問屋制家内工業」と呼ばれる形です。
当時は、まず製造業者や商店主が、靴のアッパーとなる柔らかな革を女性たちに渡しました。
女性たちは自宅でそれを縫い合わせ、続いて小工房の職人たちがハンマーや木型を用いて靴を完成させました。
つまり、革を縫う場所と、靴を完成させる場所が、完全に分かれていたのが特徴です。
「昔の靴づくり」と聞くと、一人の職人が最初から最後まで作る姿も思い浮かびますが、ニューイングランドではこうした分業によって数多くの靴が作られていました。
マサチューセッツ州の野外博物館「オールド·スターブリッジ·ビレッジ」では、小工房の建物とともに、この仕事の仕組みが紹介されています。
工房には、多い場合で10人ほどの靴職人が場所を借り、それぞれ注文の靴を作っていたと考えられています。
(参考)オールド·スターブリッジ·ビレッジ「Shoe Shop」(外部リンク)

※写真はOld Sturbridge Village公式サイトから
このようにして作られた牛革の靴やブーツは、ボストンを経由し、米国内の他の地域に加え、キューバやハイチ、チリなどにも出荷されていました。
家と小工房で分業していた時代、工場が普及する前から、ニューイングランドの靴づくりには広い販売先があったのですね。
19世紀、機械化が進んでも残った「靴の形を作る」仕事
時代は進み、19世紀後半のマサチューセッツ州リンでは、靴産業がさらに発展していました。
この頃、革の裁断や縫製には機械が使われるようになっていましたが、靴の形を整える工程は、なお職人の手作業に頼っていました。
その難しい工程が、底付けの第一段階である「吊り込み」です。
吊り込みとは、縫い合わせたアッパーを木型にかぶせ、革を引き伸ばしながら木型の形に沿わせる作業です。
平面的な革のパーツを縫っただけでは、足を包む靴の形にはなりません。そのため、木型に沿わせて立体的な形を作り、底側で固定する仕事が必要となります。
この作業が遅れると、前の機械工程で革のパーツを速く用意できても、完成する靴の数を増やせません。
裁断や縫製の速度に、手作業の吊り込みが追いつかない。それが当時の靴づくりの課題でした。
また、木型の形は、完成した靴の見た目にも大きく影響します。
革を木型に沿わせる複雑な動きを機械で再現することは難しく、機械化の試みもなかなか成功しませんでした。
そこで、この課題に取り組んだ一人の発明家が登場します。
リンの靴工場から生まれた、吊り込み機
その人物が、スリナム出身のヤン·エルンスト·マツェリガーです。

彼は1877年までにリン(Lynn)へ移り、靴工場で働きながら、職人たちによる吊り込みの仕事を観察しました。
そして、革を木型に沿わせる動きを機械で行う方法を考え始めます。
最初の模型には、木製の葉巻箱やゴム、針金などを使ったそうです。
工場での仕事を終えてから開発を続け、1883年には吊り込み機の特許を取得しました。
これは、オールデンがミドルボロウで創業する前年のことでした。
この機械は、木型に載せた靴を保持し、革をつかんで引き、釘で固定するというものでした。
革を引っ張るだけでなく、靴の形を整えて固定する一連の作業を機械に担わせた点が、画期的な進化だったといえます。

※Jan Ernst Matzeligerが考案した吊り込み機は靴作りのボトルネックを解消した。リン博物館・歴史協会に展示されている。
その後も、機械の改良は続き、ニューイングランドの靴生産能力は大きく高まりました。
吊り込みの速度が上がったことで、裁断·縫製の後で滞っていた仕事を進めやすくなり、より多くの靴を供給できるようになったわけです。
さらに、生産量の増加は靴の価格を下げることにもつながり、良質な靴がより多くの人に手の届くものとなりました。
マサチューセッツ州リン(Lynn)は「世界の靴の都」と呼ばれ、靴産業の中心地として知られるようになりました。
現在のオールデンでは、人と機械が何をしている?
さて、ここからは現在のオールデンの工場に目を向けてみましょう。
革を裁断し、アッパーを縫い、木型にかぶせて吊り込む。先ほど見てきた作業は、今の靴づくりにも登場します。
例えば裁断では、革の傷や血筋などを確認しながら、使う部分を選びます。
コードバンの場合は表面のシェービングの流れも見て裁断するため、職人の長年の経験が求められる仕事です。
アッパーの縫製ではミシンが使われています。
ミシンを操作して縫い目を美しく仕上げるのは職人で、ウィングチップなどの穴飾りは縫製に先立って入れられます。
お手持ちの靴の縫い目や穴飾りから、完成までの工程を想像してみるのも楽しいですね。
現在、吊り込みにはコンピューター制御の機械が使われているそうです。
コードバンやカーフ、スエードといった革の種類、さらに木型の形によって、革を引くのに適した力は異なります。
そのため、素材や木型に応じて機械の力を調整し、アッパーを成形しています。
革のどこを使うか、どう縫い進めるか、どの力で革を引くか。現在のオールデンでも、機械を使う工程に職人の経験や、素材に応じた調整が生かされています。
機械の役割と、それぞれの工程で人が何を見ているのかを知ると、靴づくりの仕事がより具体的に見えてきますね。
(参考)ラコタハウス「Alden Brand Story」製造工程の紹介
まとめ
今回は、ニューイングランドの靴づくりを、仕事の分担と機械化からたどってみました。
家での縫製と小工房での仕上げを組み合わせていた時代を経て、工場では裁断や縫製、さらに難しい吊り込みにも機械が使われるようになりました。
現在のオールデンでも、革を選び、縫い、木型に沿わせる靴づくりが続き、工程によって人と機械が分業しています。
次に愛用の一足を眺めるときは、ぜひ革の使われ方やアッパーの縫い目、木型に沿った立体的な形にも注目してみてください。
どのような仕事でこの形になったのかを考えると、見慣れた一足にも新たな発見がありそうですね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。